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日々のきろく

図書館や高等教育をめぐる様々なできごとなどを記録します

日本版MOOC体験記 gacco「インタラクティブ・ティーチング」 (3)学習プロセス、感想

 

 前エントリの続きです。

■学習プロセス

前述のとおり、講義は

 1)ナレッジ・セッション」
  「インタラクティブ」な学びを 促す教育のあり方について学ぶ

 2)スキル・セッション
   演劇・表現の観点から、参加者が主体的に学ぶ場を作るための技法を学ぶ

 3)ストーリー・セッション
   各領域で第一線を走る研究者・実践者たちが、「教えること」にいかに向き合い、実践してきたのかを語る

の3部構成です。このつくりは、結果的に全体の学びにうまく作用するよう計算されています。そのことに気づいたのは、最終レポートの作成・採点の時でした(これについては後ほど

 

以下、インタラクティブ・ティーチングの学習プロセスの一例です。

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【ナレッジセッションで使用するワークシートをダウンロード】 

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【ナレッジ・セッション受講】

双方向の学びについての基礎知識の習得を主眼とし、ゼミ形式で進行。毎週、10分程度のセッション4~5本を視聴します。
動画には、主任教員と東京大学フューチャーファカルティプログラム(大学教員を目指す大学院生向けプログラム)に在学するリアル院生さんたちが出演しており、まさに実際の教室での授業を覗いているような感覚。
各セッションでは先生が院生さんに対し問いかけを行うので、それについてPCの前の受講生も一緒に考え、ワークシートに記入します。
折々に、先生が院生さんの考えを引き出します。出演している院生さんたちの回答に、新しい発見をもらって膝を打つことも多く。しかし院生さんはみなさん本当に優秀な方ばかりでした。レベルの高いやりとりを見ることができたのも、思わぬ収穫でした。

特筆すべきは、このセッションが「90分の授業をデザインしよう」の回で登場した「ガニエの9教授事象*1に則って作られていることです。わかりやすさは理論に裏打ちされていたのか!と実感。仕事するうえで「感覚」も大事ですが、「理論」をばかにしちゃいかん、と改めて思いました(最近感覚寄りで仕事しがちだったかも、と反省

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【ナレッジ・セッション課題提出】
毎週1回、その週のセッションに関するクイズ(選択)形式の課題が出されます。結果は即採点され、マイページの成績欄にその週の得点率が記録されていきます。
採点と同時に、回答と解説を見ることができるのはとても良かったです。

最初のほうは元々持っている知識でなんとか解けたのですが、第4週「90分の授業をデザインしよう」あたりからはぐっと高度になり、動画を巻き戻して見直す回数が増えました。

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【スキル・セッション、ストーリー・セッション視聴】
この2つについては週単位での課題は課されないので、あとでまとめて見るひと、毎週見るひと、様々かも知れません。私はナレッジ・セッションの課題をクリアしたあと、余裕があれば見て、きついときは後日まとめて見たりもしました。

スキル・セッションは、ナレッジ・セッションと同様、講師と院生さんのやりとりをもとに進みます。時間はナレッジと同様、10-15分程度×1本。講師は音楽座ミュージカルの俳優さんです。
ここでは、場の雰囲気の作り方や緊張のほぐし方など、講義を行う上で大切な非言語的要素を学びます。これがとっても楽しくて、毎週のコンテンツのアップを楽しみにしていました。

ストーリー・セッションは、15-30分程度×1-2本。実際に教壇に立ったばかりの若手教員からベテラン教員、研修コンサル的なお仕事をされている方など、幅広い分野の方々と進行役の先生との対話形式で進んでいきます。面白いのですが、ちょっと長いな・・と思うこともたまにあったりして。。

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【最終レポート作成】

8週間のセッションを全て視聴し終え、ナレッジ・セッションの課題を終えたら、いよいよ最終レポートに取り掛かります。課題は3つ。(課題は受講生以外には公開されておらず、どこまで明らかにしてよいかいまひとつ分からないので簡単に)

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■スキル・セッションレポート(印象に残ったセッションを1つ選択:450字程度)

■ストーリー・セッションレポート(印象に残ったセッションを1つ選択:450字程度)

■総合レポート(3つのセッションの網羅的内容:900字程度)
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字数的にはさほど多くないのですが、8週間の盛りだくさんな内容を圧縮し、制限字数内に収めるのに苦労しました。
特徴的だったのは、作成したレポートを評価するためのルーブリックがあらかじめ用意されており、これを指針として自身のレポート書くことを推奨されていたこと。これは非常にありがたかったです。ルーブリックの作り方もセッションに含まれていたのですが、実際に利用することで「理想的なルーブリックのかたち」を知ることもできました(ただ、実際学生がレポートを書くときって、事前にルーブリック渡すものなのでしょうか・・・?そのへんがよく分かってないです。。^^;)

ちなみに、3部構成のうちナレッジ・セッションについては毎週課題が出されていたので、改めてレポートは課されませんでした。が。これを勘違いして、本来スキル・セッションについて書かねばならないのに、ナレッジ・セッションのことを書いてしまう人や(私も間違ってしまい、書き上げてから気づいて全文書き直し・・)、3つの課題全部を書かないうちに送信してしまう人が続出した様子。後者についてはもはやユーザーインタフェースの問題なのかもしれません。

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【他の受講者のレポート採点(5人分)】

3つの課題×5人分の採点。レポートを書くときに使ったルーブリックを基準に採点し、良かった点・改善が必要な点について、一人一人にコメントを寄せて終わり。
ほかの方が取り上げたセッションは、必ずしも自分が書いたセッションと一致するわけではないので、よく覚えてないセッションを取り上げたレポートを採点するためには、再度動画を見直すという作業が必要になります。事実ほかの方が取り上げたセッションは既に忘れていることも多く、復習を繰り返し。。。一度の学習では終わらないように計算されていることに、妙に感心してしまいました。

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【自己採点】

他者の採点を通して「あ、私のレポートあそこが抜けてる・・」と気づくことも多く、かなり辛めの採点となりました。ちゃんと最後に振り返りを行うようにできている。ほんとよく計算されてるなあ。。

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【自身の採点結果の確認】

ここまでクリアしたら、はじめて自分の採点結果を見ることができます。
ルーブリックの項目ごとの得点と自己採点の比較、採点してくださった方のコメント、双方を確認します。予想以上の得点にびっくりしました。たまたま優しい採点者の方に当たったののか、良かった点のみの言及だったのですが、改善点もびしびし指摘してほしかったなあ・・・と思ってしまいました(逆に私は採点した5人全員に対し「改善すべき点」をがっつり指摘したので、相当厳しい部類だったのではないかしら・・><。)

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【終了(修了!)】

この時点で全体の得点率が70%をこえていれば、晴れて修了です。
ナレッジ・セッションは96〜100%をキープしましたが、第3週の課題を体調不良で提出しておらず、これが最後まで響いて、最終レポート直前の段階で得点率68%。最終的には89%でした。セーフ。。。

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【修了証授与・動画ダウンロード】

修了者には修了証が授与されます。これがあるから人事評価が上がる、というわけでもないのですが、頑張ったことがかたちになるのはやっぱりうれしいー。
そして何よりうれしいのが、8週間学んできた動画コンテンツをまるごとダウンロードできる権がもらえることです。

 

■感想

これまで、自己管理や最後までやり抜く強い意志を求められる「ひとり学び」が成功したためしがなかったことから、今回も半信半疑でのスタート。仕事の繁忙期とも重なったので、正直修了できるとは思っていませんでした。

なぜ続けられたのだろう。振り返って、その要因を考えてみました。

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1)コンテンツが楽しい

これは本当に大きいです。内容もさることながら、出演している先生と院生さんの間にある信頼関係がとても好ましく、雰囲気もよいので、リラックスして受講することができました。「画面のなかのあのひとたちにまた会いたいな」と思えるってすてきなことだなあ、と。

2)双方向型講義の実感

ナレッジ・セッションの合間に先生からの問いかけがあったので、ただ話を聞いてるだけではなく、自分の頭で考える機会が多かったように思います。なんというか、授業に参加している実感が持てるというか。
毎週の課題がその場でフィードバックされ、得点率が分かるのも、モチベーションがぐいっと上がるきっかけになりました。

3)コンテンツのボリュームが適切

各コンテンツが10-15分程度で作られていて、時間的に負担に感じないところは、長く続けられる大きな要因であると思います。
私は土日で一気に視聴することが多かったのですが、1回のセッションがミニマムなので、通勤時間やお昼休みなどの隙間時間を使うことができるのは、社会人にとって非常に嬉しい仕様です。

4)振り返りができる
分からなかったところ、取りこぼしたところを見直すことで、学びの効果も大きくなりました(特に最終レポートの採点時)。MOOCならではの学習効果なのだと思います。


5)ディスカッションボードの存在

ディスカッションボード(掲示板)では、他の受講生との教え合いや情報交換を行うことができます。実際、ある週の課題の設問が理解できないことがあって「こんなことも分からないのって私だけなんじゃ・・・」とドキドキしながらボードを覗いたところ、同じ迷いを抱えている受講生がたくさんいて驚くと同時に、とても心強く思いました。ああ一人じゃないんだな、って。

6)修了しないとコンテンツがダウンロードできない

デメリットとも考えられますが、あえて。
前述のとおり、この講座のコンテンツは緻密に設計されていますが、修了しなければ一切見ることができなくなってしまう。これが私の学びのモチベーションをぐぐっと上げる、最大の材料となりました。まるで鼻先に人参をつるされながら走る馬のようですが、このコンテンツが欲しくて頑張った、というのは大きいです。かなり。

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そもそもインタラクティブ・ティーチングを受講しようと思ったきっかけは、図書館職員としてラーニングコモンズをはじめとする学修支援環境を考える上で、そこで行われるであろうアクティブ・ラーニングと呼ばれているものの本質や特性を知りたかったからでした。アクティブ・ラーニングを学生の学習行動寄りの視点で見ていたわけですが、8週間の学びを通じてこれらを知ることと同時に、シラバスやルーブリック、ティーチング / アカデミックポートフォリオの作成など、授業改善や評価の側面から、アクティブ・ラーニングへのアプローチを知ることができたのは、予想外に大きな収穫でした。

また、アクティブ・ラーニングを知ることにより、ひとつ新たな疑問も生まれました。
それは、大学の学びが全体的にアクティブ・ラーニングに傾倒していくことに対する違和感です。(※決して今回の講座を否定するわけではありません。念のため。。

あらためて「学問」ってなんだろう、と考えました。

昨年11月に中央教育審議会より出された「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」では、アクティブ・ラーニングに代表される新たな学びの指導方法や教材・評価手法の在り方について言及されています。このことは学習指導要領にも大きな影響を与え、今後は高等教育だけではなく、初等中等教育においてもアクティブ・ラーニングの比重が大きくなることが予想されます。一方で、「自身と向き合い、ひとつのことを突き詰める」学究的学びや、従来型の講義スタイル(インプット型)もまた大学「ならでは」の学びのかたちであって。こうした学びで蓄積された知識がベースにあってはじめて、アクティブ・ラーニングの効果が活きてくるのではないかと感じます。

要は、インプットの学びとアウトプットの学びのバランスなのかなと。仕事も同じ。どちらかに偏らず、相互的に作用しなければいい結果は生まれない。

図書館はそのバランスポイントにいて、双方の学びをサポートできる場所。一人での学び、大人数でのアクティブな学び、様々な学習形態にフィットした環境を提供することが、私たち図書館職員の使命なのかなと思います。

 

20150209付記 1

日本私立大学連盟の機関誌『私学時報』第358号(2014)では「世界で広まるMOOC(Massive Open Online Course)―わが国の高等教育への展開」と題した特集が組まれていますが、このなかに載っている木村健太氏(立教大学)の「やってみたJMOOC ―事務職員による受講体験記」もなかなか楽しいです(この記事に背中を押されてgaccoに申し込みました)

http://www.shidairen.or.jp/activities/daigakujihou/index_list/no358

 

20150209 付記2

すでにgacco×図書館、という取組は広がりつつありますが。*2 *3

gaccoのコンテンツを個人視聴にとどめるのはもったいなくて、著作権や契約の問題がクリアできるのならば、もっと様々な用途に活用してみるのも面白いんじゃないかな、と思いました。例えば大学職員のスタッフ・ディベロップメントに利用する「モチベーション・マネジメント」や、特にInstitutional Research担当者にフィットしそうな「統計学」あたりはまさにSD向けでは)、ラーニングコモンズで教材として活用する、などなど(思いつきですが。。