日々のきろく

図書館や高等教育をめぐる様々なできごとなどを記録します

第16回図書館総合展参加めも フォーラム編 アクティブ・ラーニング最前線「新しい学修環境を構築する:アクティブ・ラーニング、オープン化、そしてコンテンツ」

 

前回の雑感編につづき。

 

今年の図書館総合展は11/5(水)-7(金)の3日間参加しました(3日間も行ったのはじめてだー)

某フォーラムのお手伝いをしたり、もろもろわたわたしていて、3日間いたわりにフォーラムもブースも例年に比べ殆ど回ることができず。
そんななか参加したいくつかのフォーラムについて、備忘録的に記録しておきたいと思います。

 

まずは11/5のこちらのフォーラムから。

 

■アクティブ・ラーニング最前線「新しい学修環境を構築する:アクティブ・ラーニング、オープン化、そしてコンテンツ」


 

■ショートプレゼン

株式会社イトーキ株式会社内田洋行金剛株式会社株式会社岡村製作所コクヨファニチャー株式会社三進金属工業株式会社の各社から、アクティブラーニング・ラーニングコモンズ関連の商品や導入事例、出展ブース紹介などのショートプレゼン。

なかでも特に印象に残ったのは、コクヨファニチャーさんでした。
全国の大学を対象に実施した独自アンケート調査の結果をもとにしたプレゼンは、短時間ながらも聞きごたえがありました(時間の関係で割愛されたのだと思いますが、アンケート対象校のサンプル数やプロフィールを簡単でもよいのでご紹介いただければなお嬉しかったかも・・)

「ラーニングコモンズが図書館内に設置されるケース」は61%、この数が多いと感じるか少ないと取るかは人それぞれかと思いますが。私はむしろ残りの39%という数字を見て、図書館外に設置されるラーニングコモンズがずいぶん増えてるんだなあと感じました。
確かに、同志社大学ラーニングコモンズ関西学院大学アカデミックコモンズ大正大学ラーニングコモンズ創価大学ラーニングコモンズSPACe関西大学コラボレーションコモンズなどなど、ぱっと思い浮かぶ他大学のラーニングコモンズは図書館外設置のケースが多いなあと。

図書館と親和性が高いというイメージは変わらず存在しているとはいえ、徐々に「図書館の空間」から「全学共通の学修空間」にシフトしつつあるのかな、と感じました。

図書館外設置型の場合、図書館との関係性が気になるところですが。それぞれの機能分化をどうするかよりも、このふたつの学修空間を「資料」をキーに繋いでいくことを考えたいなあ、などとぼんやりと考えていました。
スライドの最後に登場した「脳に汗をかけ!」というコピーも、個人的にはキャッチーですきです。

 

「新しい学修環境を構築する アクティブ・ラーニング, オープン化, そしてコンテンツ」竹内比呂也先生千葉大学副学長/附属図書館長/アカデミック・リンク・センター長)

各社のショートプレゼンののち、竹内比呂也先生の講演と続きます。
竹内先生といえば、千葉大学アカデミック・リンク・センター。

※2012年8月のエントリで、アカデミック・リンク・センターの見学レポートを書いています。アカデミック・リンク・センターのコンセプトについてはこちらをどうぞ。


「学生の“が”をカタチにした 図書館の可能性を検証する」(高等教育問題研究会(FMICS)7月例会 参加記録) - 日々のきろく

 

アクティブラーニングを理解し、そこからラーニングコモンズの構成要素、「空間」「人的サポート」「コンテンツ」を考えるという構成でした。
ここでは特に印象に残った「アクティブラーニング」「学習空間」のお話を中心に。

 *聴き取ることができた範囲で、私なりの解釈で書いています。

 

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きれいな机と椅子を整備した。

学生には静寂にしなくてもいいと言った。

さあ、アクティブ・ラーニングの環境はできた!

 

という言葉が印象的なスライドをバックに

 

「一般的にアクティブラーニングってディスカッションが主体と考えられているけど、それって違うのでは・・?」

 

という竹内先生の問いかけから、お話が始まりました。

 

■そもそも、アクティブラーニングとは?

 

教員と学生が意思疎通を図りつつ、切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見出していく能動的な学習

 

「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」中央教育審議会(2012年8月) 「4.求められる学士課程教育の質的転換」より

 

 ・文科省や中教審の答申でもアクティブラーニングは大学教育の重要なキーワードに

 

■日本の大学が抱えている「学び」の問題

・空間がアクティブラーニングのような新しい学びのスタイルに適合していない

・多くの大学における学びの空間⇒階段教室、机も椅子も固定。

・学修支援スタッフの不足

  

■アクティブラーニングスペース(含むラーニングコモンズ)を考える上で大切なこと

・平成25年度学術情報基盤実態調査によれば、306の大学において既にアクティブラーニングスペースを設置済 *1

・学生の主体的な学びを実現するための図書館の強化が確実に進んでいる

・図書館だけが頑張って大学内で局地的に学びの環境を作っても、本質は変わらない

 大学全体の学びのスタイルそのものを変えていかないと

・ラーニングコモンズを設置することは、高等教育全般が求められている改革の一手段

・思考の転換が必要、ラーニングコモンズを作ることが単なる目的になると

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  ☆図書館のなかのひと

    ⇒図書館でやらなきゃいけない、大変だ・・・

  ☆他部署のひと

    ⇒ラーニングコモンズは重要だけど、学修環境の整備は図書館がやるべきことでしょう。

     自分たちはよくわからん

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 ということに・・・

 

■学修環境を変えていくためには?

・学習の主体を誰に置く?

・大学における教育のスタイルそのものをどのように変えていく?

 このことを、図書館で完結せず大学全体で議論しないといけない

 

■アカデミック・リンクが評価されている理由

図書館だけが頑張ったのではなく、大学の経営層がアカデミック・リンクのコンセプトの重要性を理解し、教育改革のなかで強力に推し進めたことが大きい

 

■アクティブラーニングの本質を発揮できる学修環境を作る鍵は?

・学修環境の整備・学修支援が自学にとっていかに有益で不可欠なことであるか、大学経営層のトップに説明できるか、説得できるか

 ・図書館関係者以外の参加者へ向けて⇒「図書館にまかせる」という考えを転換してほしい

 

■アクティブラーニングの理解

・アクティブラーニングを学習者の視点で考えるか?教育者の視点で考えるか?

・アクティブラーニングにおいて重要なのは課題解決能力・課題探求能力

 これらを養うために効果的な手法ではある

・アクティブラーニングの主体⇒プレゼンテーション・ディスカッション?

しかし「自ら資料や文献を探し、授業の事前・事後の学習を行う」こともまた、アクティブラーニングのひとつ

・アクティブラーニング=グループディスカッションではない

 「自ら文献を探し、授業の準備をする」というプロセスは、基本的にひとり

 

■ラーニングコモンズと「個人の学び」

・アクティブラーニングを促す場であると同時に、個人にもフォーカスする必要がある

  ⇒University of Northern Iowa, Rod Libraryが出したラーニングコモンズに関するミッション・ステートメント:「協同あるいは個人のアクティブラーニングを促す」

・日本におけるラーニングコモンズやアクティブラーニングの議論には「個人」という視点が入ってない

・サイレント・アクティブのバランスが重要

・ 能動的学修やラーニングコモンズの重要性について、大学図書館では5-6年前から議論されているが、ここにも「個人」は出てこない。 *2    

  ⇒図書館員が議論したから?(図書館員にとって「個人で学ぶ」場は当たり前に存在。+ラーニングコモンズという集団の場が必要である、という考え方)

・「個人の学び」を含むアクティブラーニングの場は、日本で多く議論されてきたラーニングコモンズとはすこしちがう…?

 

■アカデミック・リンク・センターにおける「個人の学び」

・ひとりで学ぶ学生は非常に多く、窓際のおひとりさま席も人気

・(竹内先生から問いかけ)みなさんわたしの話を集中して聞いていますが、後ろのほうでざわざわしてるのを苦痛に思いますか?(⇒気にならないという人多数(わたしもぜんぜん気にならなかった))

 学生も同様。窓際のおひとりさま席も、背後は賑やかなグループ学習スペースになっている。学生は好んでこういう席を選ぶ

千葉大では静寂な学習空間を新たに整備した。(L棟リニューアルオープン

 *L棟コンセプト:「黙考する図書館」

 ここで学ぶ学生がとても多い

・学生に「図書館での学習に最も好ましい場所」について質問⇒わいわいゾーン・静寂ゾーンほぼ半々

・わいわいゾーンを好む学生も、つねにグループで学習しているわけではない。ひとりで勉強したいけど会話可能なエリアにいたい、という学生も

 

■学修空間に求められる「多様性

・「静かな図書館」に新たな機能を加え、変わっていくことも必要、だが
・学習空間を提供し、学習スタイルや教育の環境を変えるのは図書館だけではない

・魅力的な学習環境を構築し成功している図書館やラーニングコモンズには、多様な学修スタイルに対応できる空間があるのではないか

・きれいな椅子や机を並べ、学生に声を出してもよいと言った、それがなぜ×だったのか?

・「ディスカッション」は学習の一部分にすぎない

・切り取られた「学びのプロセス」ではなく、その全体を新しい学修環境がサポートする、という発想が必要

 

■「空間は知的刺激にあふれていなければならない」

・アカデミック・リンク・センターのプレゼンテーションスペースにおける独自プログラム「1210あかりんアワー

・年間60数回、数十名のオーディエンスが集まる。これを学習空間のなかに仕掛ける

・書架も通常の図書館とは異なる工夫を(ブックツリー)⇒空間は知的刺激にあふれていなければならないから

・新しい学習空間で重要な要素は「コンテンツ・学習空間・人的支援」

   ⇒「空間がどのように利用者に認識されているか」ということも重要。

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このほか、

・オープンエデュケーション、オープンアクセス、オープンデータなどの「学びやその成果のオープン化」は多様な学修を支える基盤をもたらすものとなる

・従来の図書館が「学外で生産されたコンテンツの収集」が中心であったのに対して、これからは教材などの学内生産物を含め、授業に必要な教科書や参考資料などの電子化(著作権許諾手続含む)を行うことで「学内外のコンテンツを創り出す」機能も重要になる

といったお話も。

 

■感想

図書館総合展大学図書館だけではなく、公共・専門・学校図書館のかたや図書館関連企業、一般のかたなど、参加者の背景が多岐に亘ります。竹内先生はそのことを考慮されて、皆に分かりやすく伝わるよう気を配りながらお話されている様子が伝わってきました。

 

アクティブラーニングやラーニングコモンズとはどんなものか、これらがなぜ「いま」高等教育において盛んに取り上げられているのか。これらの言葉に日常的に触れている大学図書館員でも分かったつもりになっていて意外と本質を理解していなかったりするのでは・・と思っていたので、平易な言葉で整理されたお話から、自分の認識を再確認することもできました。とてもありがたかったです。

 

一連のお話のなかで特に印象に残ったのは、「個人の学び」もアクティブラーニングのひとつである、ということ。アクティブラーニングは文字通りディスカッションやプレゼンテーションなどのアクティブな学習行動というイメージを、私を含め多くの大学関係者が抱くのではないかと思いますが、確かに「自分で調べる」ことも、能動的な学びの行動のひとつなのですよね。

 以前とある先生とお話していたときに聞いた「議論のベースとなる知識を得るための座学も、大きな意味でアクティブラーニングであると思う。アウトプットだけでは本当の学びは得られないんだよ」という言葉を、ふと思い出しました。

 

「集団」と「個」の学び。多様な学修形態にフィットする空間。このあたりのお話をお聞きしていてふと頭に浮かんだのが、以前見学させていただいた明治大学和泉図書館でした。
様々な利用者の個性に寄り添う場所づくり。ラーニングコモンズに限らず、大学内のあらゆる場(教室・ラウンジ・カフェetc・・・)にも当てはまる話であり、キャンパス全体の施設整備においても重要な指摘であると感じました。

明治大学和泉図書館の見学レポートはこちら

明治大学和泉図書館見学レポート(前編)
明治大学和泉図書館見学レポート(中編)
明治大学和泉図書館見学レポート(後編)

 

また、最後のほうで言及されていた、自学の建学の精神や教育方針に合った、「大学のミッション」を果たすための学修環境の構築の重要性も、忘れてはならないことだと思います。

 他大学の取組をそのまま取り入れるのではなく、自学ならではの要素(学生の学習傾向や学部構成、カリキュラム、育成しようとする人材像etc…)を踏まえた「学びのデザイン」を考えること。アクティブラーニングはデザインされた学びの成果をかたちにするための一つの手段であり。ラーニングコモンズを単なるにぎやかなグループ学習室に終わらせず、「学びのデザインを実現する場」とするために、図書館の視点に留まらず、大学全体の教育を見る意識を持ち、自分の頭で考えること。

まさにここが、今回のお話の肝であると感じました。

 

そして、講演の最後に提示されたこのスライドのことばに、ぐっときました。

 

きれいな机といすを整備した

学生には静寂にしなくてもいいといった

我々はアクティブラーニングのスタートラインに立った!

 

 

そのほかのフォーラムについても纏めたかったのですが、長くなったのでこのへんで・・