日々のきろく

図書館や高等教育をめぐる様々なできごとなどを記録します

新年のご挨拶&私立大学における機関リポジトリ構築について思うこと

 

新年あけましておめでとうございます。

 

昨年はいきおいでブログを始めたものの、8月で完全に時が止まっておりました・・

今年もできるときにちょこちょこ更新、となりますが、見てきたこと、感じたことを自分なりに、つれづれと細く長く(?)記録していこうと思いますので(相変わらず文章力はありませんが・・)どうぞよろしくお願いいたします。

 

新年1発目は私立大学における「機関リポジトリ*1の構築について思ったことをつらつら書いてみます。

 

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2013年1月4日、文部科学省による「学位規則の改正案に関するパブリックコメント」の募集が締め切られました。

今回の学位規則の改正案を見ていると、いよいよ大学において機関リポジトリは情報インフラとして欠かせないものとなってきているのかな、と今更ながらに強く感じます。

なお、今回の「学位規則の改正案」の概要は下記のとおりです。*2

1)博士論文の印刷公表*3に代えて、インターネットを利用して公表することとする

2)博士論文要旨等についても、インターネットを利用した公表とする

#1)・2)ともに「大学院における教育研究成果の電子化及びオープンアクセスの推進の観点」からの改正となる

#「インターネットの利用による公表」とは、学位を授与した大学の機関リポジトリ国立情報学研究所が提供する共用リポジトリ「JAIRO Cloud」・ホームページの利用が想定されている

(個人的には「JAIRO Cloud」という言葉がここに登場したのはびっくりでした)

同関連情報「学位規則の改正案に係る考え方(補足)」には、インターネットの利用による博士論文の公表形態について、「博士の学位を授与された者各人が各々の手法でインターネット上に公表するのではなく、長期にわたり継続してインターネットを利用した公表が維持されるためには、学位授与大学等が責任を持って一元的に管理し、発信することが望ましいと考えられる」とあります。

上記でも言及されている「機関リポジトリ」の整備に関しては、昨年7月に文部科学省 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会より出された「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」において、日本の学術情報基盤整備と国際発信力の弱さ、日本発のの有力ジャーナルの育成の必要性を指摘しつつ、

・研究成果のオープンアクセス化に関して積極的に取り組むべき

・国内におけるオープンアクセスジャーナルの育成

・各大学等が整備を進めている機関リポジトリの活用

・大学等が教育研究活動をアピールするに当たり、機関リポジトリの整備・充実は重要であるとの認識を一層普及させるべき

・機関リポジトリの整備による研究成果の社会への還元が大学等の責務を果たすことにつながる

・大学等全体として取り組むべき情報発信機能であることを明確化すべき

・「大学改革実行プラン(平成24年6月)」における「大学ポートレート(仮称)」と同様、大学情報の積極的な発信を目的とするものでもある

・大学等の機関別認証評価等において、機関リポジトリによる情報発信への取組を評価の対象とし、その取組状況を把握・周知することが重要

・大学等による研究者の個人評価において、業績として情報発信の取組を評価の観点に加えることが重要


と述べられており、「科研費等競争的資金による研究成果のオープンアクセス化への対応」の項目においては「所属機関の整備する『機関リポジトリ』をオープンアクセス化の受け皿として活用することが現実的な方策」とも記されています。

学位規則の改正案にしても「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」の内容にしても、研究機関として機関リポジトリは既に設置されている前提で、その次の段階(機能強化)に論点が置かれていると感じました。

 

国立情報学研究所最先端学術情報基盤(CSI)構築推進委託事業等の後押しもあり、国立大学ではほぼ構築済みとなっている機関リポジトリですが、翻って私立大学を見ると、全国的にまだまだ未整備の状況にあります(JAIRO Cloudの登場で、構築が一気に進んでいる印象もありますが)


これまでも

「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」(平成14年3月 文部科学省科学技術・学術審議会・研究計画・評価分科会・情報科学技術委員会・デジタル研究情報基盤ワーキング・グループ)
「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(平成18年3月 文部科学省科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会)
「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)」(平成21年7月 文部科学省科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会)


等で、学術情報流通における機関リポジトリの構築と機能強化の必要性について言及されてきてはいましたが、今回の学位規則の改正案と「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」の内容は、私立大学における機関リポジトリの構築の強力な追い風となるのでは、と思っています。

機関リポジトリを構築・公表することにより、大学にとっては、研究成果の社会への還元(博士論文の公表も含め)や、科研費等の公的資金による研究成果の発表等により社会に対する説明責任を果たすことにもなります。また、大学の研究動向を積極的に外部に公表することにより、新たな産学連携のきっかけを作ることができるかも知れない。研究者にとっては自身の研究成果のアピールの場となり得るし、可視化にもつながっていく。そして個人的にはちょっといやらしいなあ(?)という印象もありますが、「大学等の機関別認証評価等において、機関リポジトリによる情報発信への取組を評価の対象とし、その取組状況を把握・周知すること」「研究者の個人評価において、業績として情報発信の取組を評価の観点に加えること」が重要、と謳われたことは大きいと思います。

 

図書館のなかのひとが追い風を認識し、こうした利点を積極的、戦略的に学内に伝え、学術情報流通の一翼を担う自覚を促していく必要があることを強く感じました。

*1:自機関で生産された研究成果(学術論文・各種報告等)をサーバーに蓄積し、インターネットにより広く学内外に無償で公開するシステム

*2:文科省「学位規則の改正案に関するパブリックコメント(意見公募手続き)の実施について」関連情報「学位規則の改正案について」 http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000094626 より要約

*3:学位規則(昭和28年文部省令第9号)第9条