日々のきろく

図書館や高等教育をめぐる様々なできごとなどを記録します

「学生の“が”をカタチにした 図書館の可能性を検証する」(高等教育問題研究会(FMICS)7月例会 参加記録)

 

高等教育問題研究会の例会に初めて参加しましたので、メモとして。

※あくまで私の聞き取れた範囲&私個人の解釈を踏まえての内容となっております。


高等教育問題研究会のメンバーは主として私立大学の事務系職員、そのほか、理事・教員・学生、各種団体・民間企業・官公庁などからの参加者もいらっしゃるとのことです。

 

  高等教育問題研究会(FMICS)7月例会(第623回例会)

  日  時:2012年7月28日(土)14:00-17:00

  会  場:千葉大学 アカデミック・リンク・センター
  問題提起:織田 雄一 氏 (千葉大学学生部長)
      竹内 比呂也 氏(千葉大学文学部教授・附属図書館長/アカデミック・リンク・センター長)
  司  会:高橋 真義 氏 (桜美林大学 大学アドミニストレーション研究科教授)
  http://www.fmics.org/

 

 

 

図書館業界では何かと話題の、千葉大学アカデミック・リンク・センター。

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2012年7月7日(土)に開催された情報メディア学会第11回研究大会において、センター長の竹内先生の基調講演「アカデミック・リンクは何をめざしているか 高等教育における図書館を基盤とした新たな学習環境の構築に向けて」を聴いて以来、新しい形の学習環境を創出しているアカデミック・リンク・センターが気になっていました。

#情報メディア学会の竹内先生の基調講演報告についてはかたつむりさんのレビュー(「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」)に詳しいです

 

ちなみに今回の参加のきっかけは以下の2点でした。
千葉大学のアカデミック・リンク・センターは図書館業界で頻繁に話題に挙がるものの、図書館外の職員の方々にはどのように見えているのか聞いてみたい
・一般的に図書館職員は大学の中で孤立しがち→教員との連携不足や大学の施策において図書館が重視されない傾向に繋がっているのでは?→様々な立場の方の意見を聞き「より良い学習環境を創出するために図書館職員がなすべきこと(意識改革)」のヒントを得たい


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竹内センター長よりアカデミック・リンク・センターの説明をいただきつつ施設見学。

 

    アカデミック・リンク・センター3つの特長

           「自由なスタイルで学習できる空間の提供」

           「学生に使いやすい形でのコンテンツ提供」  

              「人的支援によるコンテンツ活用能力の向上」

 



アカデミック・リンク・センターには「主体的に学ぶ」楽しい仕掛けが随所に散りばめられていました。


■アカデミック・リンク・センターがめざすもの
 ・「考える学生の創造」
 ・「生涯学び続ける基礎的な能力」「知識活用能力」を持つ学生の育成
 ・空間・コンテンツ・人的支援の融合

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アカデミック・リンク概念図

 


■予算の獲得

 ・「図書館の改革」ではなく「千葉大学の教育改革」として提案
 ・図書館が何かを変えようと言ったところで大学全体に与えるインパクトは弱い
 ・「アカデミックリンクセンターは千葉大学の最大の強み」 と言われるところまできた
   →中教審答申に言及されている
    【PDF】「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(審議まとめ)資料編2/2  (2012年3月)
               
    
高等教育政策における大学図書館

 ・大学においてもっと図書館に着目されてもよかったのではないか
 ・学習・教育のサイドから図書館が果たすべき役割についての発言は希薄
  「21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申) ―競争的環境の中で個性が輝く大学―」(1998年3月)では大学図書館について言及されているが、施設・整備の利用が中心
  (→「閲覧席の確保」「開館時間」「開館日数」「必読図書の配備」など
 ・1990年代になってようやく教育改革の機運高まる
 ・2000年代の学生支援GPで図書館を取り上げたものが脚光を浴びた
        東京女子大学「マイライフ・マイライブラリー」


■建物の構成

 ・静粛な閲覧スペース
 ・書庫的空間
 ・研究開発、コンテンツラボ、ティーチングハブ
 ・アクティブラーニングスペース
 ・書店(福利厚生施設)→図書館の建物のなかに作るのは珍しい

 4つのゾーニング
  L棟 Learning 黙考する図書館
  I棟 Investigation 研究・発信する図書館
  N棟 Networking 対話する図書館
  K棟 Knowledge 知識が眠る図書館

 #おおっ縦読みすると「LINK」になってる!(←いま気がついた

この日はN棟を中心に見学させていただきましたが、館内は学生さんで賑わっていました。
写真はアップできませんでしたが、グループ学習スペースは満席。
学生さんたちが本当に楽しそうに、生き生きと学習に取り組む姿が非常に印象的でした。

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N棟 窓際には個人席がずらーっと。この日は満席でした。

 

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N棟 外からまる見えのグループ学習室

 

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N棟 見せる書架(ブックツリー)

授業で使用される資料が「授業資料ナビ」とともに展示される

 

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ブックツリーに配架された資料は同一タイトルで複数冊用意。

カバーに「館内用」「貸出可」の表示をつけている

 


■空間の演出

 ・「見る」「見られる」ということが大きなコンセプト
   →明るくて外からよくみえる→そこで勉強しているひとの姿がよく見える
   →図書館が外からみえる→プレゼンテーションスペースが丸見え。外から入ってくるのも自由

   →グループ学習室もガラス張りで丸見え
   →教室も丸見え
    ☆「見える」「見せる」ことがそこで活動するひとの刺激になる

  
■学生の知的好奇心を刺激するイベント

  ・1210あかりんアワー
    →1回あたり約20-70名参加
    →プログラム例:

    「教員が研究の楽しさを語る」
    「千葉大人の意外な一面を発見する」
        ⇒職員や理事も登壇し謡曲や四重奏を披露したり
    「ブックトーク 働くオトナが学生に薦める1冊の本」
                    ⇒敢えて図書館以外の部署の職員にスピーカーを依頼
    →オープンな場所での開催→「ん、なんか面白そうなことやってる」とふらっと来るひとも
    (「見せる」演出)
   →アカデミック・リンク・センターをどう使うか学生に提案させる試みも
 ・学生に発見してもらいたい
   →「自立的に学ぶ」いろいろなきっかけを作ってほしい
   →「これおもしろい!」っていう気づきを作るきっかけをアカデミック・リンク・センターが担う
 ・学生が作ったものを発表する場所としてのプレゼンテーションスペース

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N棟 プレゼンテーションスペースの使用例
観客席の背後には全面開放できるガラスドアがあり、外を歩く学生も自由に入ってくることができる

 


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見学後は竹内先生と参加者によるディスカッションが行われました。

 

まずは、参加者である私大職員の方(not図書館)からの問題提起。

 

  図書館を使わなくても卒業できてしまう現状
  教員が図書館を使う必要のある授業をしていない
             →教員と図書館の連携が取れてない?
  図書館は「図書館を使って!」といろいろやっているようだが、結局それは図書館職員が自分
  居場所を確保するため、生き残りをかけて頑張ってるようにしか見えない。
  図書館の一人相
撲であって、お金と人の無駄ではないか

 

 
わーお痛烈。図書館の中のひととしては正直ヘコむ内容でしたが、まさに言い得ているなあとも思いました。


また他の参加者からは

 

・「図書館を使わせる」ではなく「学習行動のなかで自然に図書館を使う」流れにできたらいいのでは

・図書館と教員の思いがマッチしてない学校が多いが、千葉大ではうまく行っている。その秘訣は?

・学士課程教育において事前事後学習が求められているなかで、教員が図書館に相談できるようであったら

・現状では図書館職員が「本の番人」に終始しているケースが多いのでは?

千葉大のなかの図書館の位置づけは?

 

という問いが。


アンサーとして

 

コンセプトブック【PDF】を読んでみてほしい
・2006年から教員と職員との連携を考えていた
・教育のなかの図書館機能の強化
・当時部署内で最も若い職員を連れて行き学長にプレゼンテーション(好評!)
・教員と「図書館員」ではなくて、教員と「図書館の◯◯さん」という関係の築き
   →図書館員と教員が接触する機会を増やす
   →教員からみたときに、図書館員が匿名ではなくなる
   →図書館員と教員が向き合い授業を作り上げる
   →アカデミックリンクセンターの考え方の根底にあるもの
・グループ学習空間でゼミをやってる先生もいる
・7つのプロジェクトが進行中
   →各プロジェクトに教員と職員を組み合わせて取り組ませる
   →職員は教員の下請け、というかたちにさせず、自由闊達に意見交換をしてもらう
・センターのコンセプトは中教審答申の半歩くらい先を行っていた
・平成8年の学士課程答申を読んだときに、図書館にできることがたくさんあるではないか、と思った
・なぜ千葉大で実現できたか?
   →図書館の変革ではなく、大学の教育改革という切り口で話を持って行った
   →図書館の内部でやったら失敗する、というのは分かっていた
   →他大学のコモンズとは違う、というところを強調
・効果を学内で共有していることが千葉大の成功のポイント

 
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感想

■パブリッシング・ハウスとしてのセンター
ラーニングコモンズは空間・資料・人的支援が強調されますが、千葉大学のアカデミック・リンクが他のラーニングコモンズと大きく異なる点は、アカデミック・リンク・センター3つの特長の中の「学生に使いやすい形でのコンテンツ提供」です。
従来の図書館は「学外で生産されたコンテンツの収集」が中心であったのに対して、アカデミック・リンク・センターは教員が作成した教材などの学内生産物を含め、授業に必要な教科書や参考資料などの電子化(著作権許諾手続含む)を行うパブリッシング・ハウスとしての機能を持っているそう。

 

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コンテンツ製作室 授業コンテンツ制作のための作業端末が見える(写真ぼけぼけでスミマセン・・


「学内外問わず、学生が使いたい資料を多様なフォーマットで提供する」
「センターが著作権許諾を含む電子化業務を担う」
これまでの図書館にない新しい視点ではないでしょうか。


■図書館の「見える化」の効果
竹内先生のお話を伺っていると、先生が「図書館職員だけではなく、他部署の職員も積極的にセンターに関わってもらう」というスタンスを取っていらっしゃることがわかります。これは、上述の「1210あかりんアワー」に敢えて他部署の方をスピーカーに招いていることにも表れています。

経営サイドに対し、アカデミック・リンク・センターを「図書館の改革」ではなく「千葉大学の教育改革」として提案したことは、「 図書館のなかでいろいろ考えても伝わらないことが多い」という経験に基づいていた。こうして大局的視点で構築されたセンターで、教員だけではなく他部署の職員にもセンターに関わってもらうことで、図書館外からセンターに対し好評価を得ることができ、「外からの評価で大学のなかのひとも納得する」「外からの評価が格好の図書館アピールとなる」ということを実感したそうです。

センターは主体的な学習の場であると同時に学生・教員・職員のコミュニケーションの場。その中には部門間連携を促進させる仕組みが存在しており、千葉大学での成功の鍵がここに凝縮されているように感じました。


千葉大学にしかできないのか?
竹内先生の「ハード面で制約があっても、アカデミック・リンクの考え方自体は普遍のものであり、どこの大学でも当てはめることはできる」という言葉が印象的でした。
こういった先進事例を聴くと、「きれいな施設、大きなハコを作るなんて予算がないから絶対ムリだし、学習支援における院生の活用も学内のハードルは高いし、うちには難しいかも。。」と思ってしまいがちですが、ソフト面で実践できることはたくさんあるじゃないかと気が付きました。

肝心なのは、千葉大学での実践のなかで自学で活かせる部分を落とし込んでいくこと。

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「主体的に学ぶ能力」を習得するための学習環境の創出はもはや図書館単体で考える課題ではなく、大学を構成するすべての人々がボーダレスに協働する必要があります。アカデミック・リンクの考え方を取り入れつつ、図書館職員の意識改革にも取り組んでいきたいなあ、と思った一日でした。

 

20120802追記:掲載写真の撮影、使用については許諾をいただいております。