日々のきろく

図書館や高等教育をめぐる様々なできごとなどを記録します

日本高等教育学会第15回大会 参加メモ(2)

 さて前回のエントリに書いた、発表者ご本人からWeb掲載の許諾をいただいた発表についてのメモを。

(ご承諾ありがとうございました!)

※あくまで私の聞き取れた範囲での内容となっております。足りない部分も多々ありますことをご了承ください

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大学図書館による社会人を対象とした情報リテラシー教育とその発展可能性  / 梅澤貴典さん(中央大学


梅澤さんは現在中央大学ビジネススクール事務室に勤務されておりますが、図書館勤務経験がおありです。また勤務の傍ら大学院修士課程を修了されています(「大学図書館職員の専門性アップ」を研究テーマとされていたとのこと)

 ひとくちに図書館員の専門性アップと言ってもそこには様々な問題が横たわっていて(大学における人事政策・財政問題等)、専門性の向上や専門職員の確保のためには、大学行政の面から改善策を提言しなければならない。そのためには大学に関する様々な知識・課題等を体系的に学ぶ必要があると考えたそうです。

このへんは個人的に非常に共感できる部分であったので、梅澤さんから高等教育学会で発表するというお話を伺って、「これは聞かなくては!」と思ったのでした。
 
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<大学図書館を取り巻く環境の変化>

⇒資料の電子化・情報リテラシー教育の充実を求められる

⇒しかし社会人院生にとっては旧来の「静かに紙媒体資料を使って勉強する」イメージ

 

<ウェブの情報の拡大>

⇒企業や団体において責任を持つ社会人には「あふれかえる情報からエビデンスのある情報を取捨選択する力(情報リテラシー能力)」が求められる
⇒検索エンジンで引っかかる情報が全てと捉える人間と、様々なツールを使ってエビデンスのある情報を収集できる人間では企業の評価も大きく変わる

 

<社会人院生が業務を遂行する上で、情報リテラシーのスキル・知識の不足点を検証>

⇒大学図書館はどのように支援できるか?
⇒大学経営にいかに応用できるか?(在学生への付加価値を付けられるか?)

 

<「働きながら学ぶ社会人大学院生」への情報検索講習会参加者アンケートの分析>

 ⇒Aグループ:T大学大学院 大学経営・政策コース
  Bグループ:MBA取得を目指す国内ビジネススクール在学生を中心とした勉強会
⇒各種データベース・電子ジャーナルについての認知度が予想以上に低い
⇒受講前の認知度が低いツールほど、受講後「役立つ」と感じる度合いが上がる
⇒認知度の役立つ度も、勤続年数による影響はあまりない(若年層でも知らないDBが多い?)
⇒学位の高さによって役立つと感じる度合いも変わる

※アンケートの母集団が学習に対して積極的な層であることから、一般の社会人は各ツールの認知度は低いと思われる
受講生のレベルや傾向によって講習会をカスタマイズする必要あり。

 

<社会人対象の情報リテラシー教育の実施>

⇒潜在的ニーズは大きい(が、ニーズ自体認識されてない)
⇒著作権と資料への引用時の表記ルールの認知度が低いのは、企業におけるコンプライアンスの面からも危険。企画書作成等通常業務に置いても遵守すべき、という教育は必要不可欠

 

<大学経営政策への応用>

⇒社会貢献

⇒新規マーケットの拡大

⇒大学で学ぶことの価値を再認識させるきっかけ

⇒卒業生の付加価値の向上

 「エビデンスのある情報を効率的に集められる」という付加価値(他大学との差別化)

⇒在学中から企業の第一線で働く社会人院生にとって、その付加価値の企業に与える効果は大きい

 

<大学職員のスタッフ・ディベロップメントへの応用>

⇒大学職員がWikipediaや検索エンジンで得られる情報だけを引き出しに、学生や世の中のニーズを捉えるのは危険。多面的な情報を収集し分析する力を
⇒大学の経営を担う人材として、社会人同様エビデンスの高い情報を効率的に収集する能力は必須
⇒社会人に対する情報リテラシー教育を発展させ、職員に対する情報リテラシー教育の実施を最終目標と考えている

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感想

 今回の発表は、ビジネススクールで学ぶ社会人に対する情報リテラシー教育の成果を自学の卒業生の付加価値とし、自学ブランドの向上に結び付けていくという、非常に興味深い研究内容となっています。大学図書館はこれまで社会人(大学職員含む)をサービス対象として見ていない傾向が強いと思っていましたので、こうしたサービス提供層の拡大に新たな可能性を感じました。

また、大学職員にとっても情報リテラシーは必須であるという箇所は非常に共感できます。学生を送り出し、経営を担う人材として、信頼性の高いデータや情報を効率的に収集し的確に分析する力は必要不可欠です。

こうした「成果が目に見えにくい部分」について、図書館がどのように貢献できるか考えなくてはいけない時期にきているのではないかと強く感じました。