日々のきろく

図書館や高等教育をめぐる様々なできごとなどを記録します

明治大学和泉図書館見学レポート(前編)

前回のエントリ「2013年度大学教育学会課題研究集会に参加しました(その1)」の続きを書こうと思っていましたが、興奮冷めやらぬうちに図書館見学レポートを書くことにしました(順番がおかしいのですが前回の続編は後日必ず・・

というわけで。
12月13日(金)、東京出張の翌日に冬休みをぶつけて、ずーーーーっと行ってみたいと思っていた明治大学和泉図書館にお邪魔してきました!

明治大学和泉図書館の設計コンセプトは「入ってみたくなる図書館」。音のゾーニングと、フロアごとに変化する空間による「長時間滞在型図書館」が大きな特徴です。
2012年5月に開館し、図書館業界はもちろん、業界外でも話題となりました。
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「入ってみたくなる図書館」明治大学和泉キャンパス新図書館オープン(マイナビニュース 2012/04/27付)
●明治大、ラウンジ風の新図書館 和泉キャンパス(日本経済新聞 2012/05/7付)
●concept view 明治大学創立130周年記念和泉図書館 人と人、人と情報を結ぶ架け橋(日刊建設工業新聞 2012/08/24付)
●集い語る 大学図書館に(朝日新聞 2013/09/27)

 

概要

 

明治大学和泉図書館】*1

 ■開館年月日:2012年5月1日
 ■階数:地上4階(集密書庫中間階含め全7層)
 ■延床面積:8,856.92㎡
 ■閲覧座席数:総席数1,296席
       (1階:382席 / 2階:354席 / 3階367席 / 4階193席)
 ■配架可能図書数:600,000冊(うち集密書庫400,000冊)
 ■設計監理:株式会社松田平田設計

【(参考)明治大学*2
 ■キャンパス数:4(駿河台・和泉・生田・中野)
 ■学部・大学院構成:10学部15研究科
 ■学生数:学部:29,902名 大学院2,531名(和泉キャンパス学生数:約10,000名)
 ■キャンパス面積(和泉キャンパス):敷地面積71,216.83㎡ / 建物延床面積82,654.28㎡

 

開館時には徹夜組も出たようですね(笑
togetter - 明治大学和泉キャンパスに新図書館がOPENした。
 #認定証と記念品まであったのか!http://p.twipple.jp/o3uGA

キャンパスの象徴

和泉図書館がある和泉キャンパスには、法学部・商学部・政治経済学部・文学部・経営学部・情報コミュニケーション学部の1・2年生および大学院生、約10,000名の学生さんが学んでいます。
1・2年生がメインであるためか、キャンパス内は若々しく活気のある印象を受けました。

京王線明大前駅を出るとすぐに、立派な正門が見えてきます。その奥ににひときわ目を引く建物が。
ぱっと見図書館に見えないモダンな外観に、ここが和泉図書館であると認識するまで少し時間がかかりました。

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 正門入ってすぐの立地は理想的!キャンパスの象徴となっていました。

 

明るく開放的なエントランス(この透明ゲートいいなあ・・

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さっそく和泉図書館事務長の坂口雅樹さまにご挨拶。

facebookで情報交換させていただいておりましたが、お目に掛かるのは初めて。この日は職員育成から設計コンセプトまで、懇切丁寧にご説明・ご案内をいただきました。
坂口さんは既に170回を超える館内案内をこなされているとのことで、和泉図書館の注目度の高さが伺えます。

まず最初に、和泉図書館の概要と運用体制について坂口さんよりご説明いただきました。

お話の中で特に印象に残ったのは・・

 

■「入ってみたくなる図書館」「記憶に残る図書館」ー 利用者の個性に寄り添う場所づくり

和泉図書館の設計コンセプトは、先にも書いた通り「入ってみたくなる図書館」。実際に入ってみると、その居心地の良さに驚かされます。
利用者の個性に寄り添い、館内にバリエーション豊富な場所を用意することで、誰もがお気に入りの場所を館内に見つけ、長時間滞在することができる。また壁面を減らしガラスを多用することで外から図書館活動がよく見える。それに刺激された学生が「自分も入ってみよう!」と思ってくれる。そんな仕掛けのもとに作られた図書館は、まさに「入ってみたくなる図書館」を具現化していました。

坂口さんは、このコンセプトのほかにもうひとつ「記憶に残る図書館」を目指したい、とも。

入ってみたくなる→図書館が「自分の居場所」になる→学生生活のサイクルのどこかに必ず図書館がある→卒業しても利用できる

在学中から卒業後まで、時間の流れの中に図書館が自然に存在する、記憶に残る図書館。なんて素敵なのでしょうか。

実際に学生さんからは「自分の中で大学=図書館になりつつある」という感想があったとのことで、この新たなコンセプトも着々と実現しているのではないかと思いました。

 

■職員の育成 - 「職員が働きたくなる図書館」=「利用者が来たくなる図書館」

和泉図書館では閲覧サービスの一部を業務委託し、レファレンスサービス、サーチ・アシスト(学習支援デスク)におけるレポートの書き方指導、英語による学習相談は専任職員で運用。
「レファレンスは図書館業務のすべての基礎となる」という考えのもと、レファレンスの経験を重ねた図書館職員はアカデミックスキルを学ぶ4コースの正課授業を持つとのことで、和泉キャンパスでは半期15コマの授業のうち、12回を図書館職員が担当されているそうです。

ここで特筆すべきなのは、いわゆる「図書館実務」を担当する職員だけではなく、館内の庶務・会計系職員も授業を担当するという点です。
直接図書館の実務に関わっていなくても図書館運営の一翼を担っている、図書館構成員全員が利用者サービスを意識して仕事をすることは重要なことで、その意識を醸成するための取り組みとのこと。実際に授業を担当される予定の方は、実際に授業を聴講し、かつ自学自習を重ねられるのだそうです。
通常業務にプラスしての自学自習というのは相当に大変なことと思うのですが、それでもみなさん努力を重ねて授業を持つまでに成長され、図書館業務の面白さ・奥深さを知って通常業務への意識も変わっていくとのこと。庶務・会計系の方々のこうした試みは、国内の大学でも非常に画期的なことではないかと思います。

私も図書館で管理業務中心の仕事をしているので、ときどき自分が図書館のために、ユーザーのために何ができているのか見えなくなってしまいそうになるのですが、このような経験によって、見えなかった部分がうまく繋がっていくのだろうな、とお話を伺って感じました。私は他部署から来て司書資格も、専門と言えるものも持っていないことが長年コンプレックスだったのですが、それでもできることはたくさんあるのだと改めて気づかされました。

図書館は学内でも「大学教育・研究」のすぐ近くに位置する数少ない部門であって、図書館員は教育研究活動にコミットできる可能性を持っていると思います。サービス業務・管理業務問わず、図書館で働く人たちがそのことを常に意識するのは、とても大切なこと。

職員と利用者の満足はイコールであるはず、すなわち「職員が働きたくなる図書館」=「利用者が来たくなる図書館」である、という坂口さんの言葉が、とても印象に残りました。

 

■部門間連携

図書館内に常駐する学修支援担当の大学院生(TA)は図書館外の学習支援室の所属とのこと。学習支援室では様々なサポートプログラムを実施しているので、図書館での相談内容によっては学習支援室を紹介することもあるなど、先に紹介した図書館職員の授業と共に、学修支援が図書館に限らない全学的取組として、体系的に実施されている印象を持ちました。

 

お話を伺ってから実際に館内施設を見学させていただきましたが、そちらは次回のエントリでご紹介したいと思います。

*1:明治大学和泉図書館案内パンフレットより

*2:明治大学ホームページ「教育情報の公表」より http://www.meiji.ac.jp/koho/disclosure/ (参照:2013-12-15)

2013年度大学教育学会課題研究集会に参加しました(その1)

前回のエントリがなんと2013年1月4日、忙しさを言い訳にしていたとはいえ、どんだけ更新していないのかと自分でもびっくりですが、ひさしぶりに。

2013年11月30日(土)-12月1日(日)、同志社大学今出川校地にて開催された2013年度大学教育学会課題研究集会に参加してきましたので、備忘録的に書きしるしておきます。

 

■学会入会のきっかけ

研究者でもない私が大学教育学会に入会したきっかけは、今年の6月1日(土)-2日(日)に東北大学で開催された第35回大会でした(統一テーマは「教育から学習への転換」)

詳細なプログラムはこちら⇒【pdf】大学教育学会ニュースレター No.93 , 2013.4

大学教育学会は、その研究領域を

専門教育、教養教育の区別を超え、大学教育の総体を、より人文的な人間主体の、自己改革を含む研究対象としてとらえ、「FD」、「学生の自己教育」等々、研究開発の可能性豊かな学問領域としての「大学教育研究」(大学教育学会ホームページ「わが国大学教育百年の視野」より(参照 2013-12-08))

としています。

自己改革を視野に入れているため、教員による「FD(ファカルティ・ディベロップメント)」*1のみならず、大学職員の「SD(スタッフ・ディベロップメント)」*2についても研究対象となっています。そのため、大会では職員による関連発表も数多くなされていました。

教員だけではなく、大学職員も研究発表をしている。現場の視点を持った研究成果に触れることができるかもしれない。これが学会入会を決めるポイントであったと思います。

第35回大会の統一テーマ「教育から学習への転換」にもあるとおり、学修支援にスポットが当てられたことが特徴です。特に「ラーニング・コモンズ」*3がテーマのラウンドテーブルでは(実はここで発表する予定だったのですが、業務上の事情により他の方に代わっていただいたのでした・・。)学生の主体的学びの実現、学修支援の在り方について活発な議論がなされました。このラウンドテーブルは、図書館関係者のみならず、教員・他部局の職員の方も多数参加され、ラーニング・コモンズがアクティブ・ラーニング*4を実現する装置として、全学的に注目されており、図書館外からも図書館職員に対する期待が高まっている、ということを強く実感しました。

 #ラウンドテーブル「ラーニング・コモンズ」の詳細については、当日参加された方がブログに詳しく記録してくださっています。
システム担当ライブラリアンの日記 (2013.6.1.)大学教育学会_1_ラウンドテーブル

vol.483:eラーニングかもしれないBlogラーニングコモンズをめぐる冒険(大学教育学会第35回大会参加記)

 

■2013年度大学教育学会課題研究集会

 前置きが長くなりました。

6月のテーマ「教育から学習への転換」に続き、今回の課題研究集会のテーマは「大学教育の質的転換の方向性を問う」。

興味深いテーマですが、もうひとつ魅力がありました。会場の同志社大学今出川校地の良心館には、今年4月に国内最大級のラーニング・コモンズがオープンしています。自学でも本格的な学修支援をスタートさせるにあたり(遅い)、ここはぜひ見学しておきたいスポットでもありました。

 #同志社大学ラーニング・コモンズについてはこちらのブログに詳しい見学記が。

ほんとも!〜学校図書館おたすけサイト〜 同志社大学ラーニング・コモンズ見学
【pdf】同志社大学ラーニング・コモンズ案内パンフレット / Learning Commons Guide

 

プログラムは2日間にわたって行われました。今日のエントリはまず1日目の分を(全てではありませんが)。

*内容は聴き取ることができた範囲で、私なりの解釈で書いています。

●第1日

1)プレ行事:「協同学習による政策提案ワークショップ」
   @ラーニング・コモンズ プレゼンテーションコート

2)基調講演:「アメリカにおける共通教育の方向性」
   ■Dr. Caryn McTighe Musil氏
   (AACU Senior Scholar and Director of Civic Learning and Democracy Initiatives)

    「Active learning for active citizenship」

3)開催校企画シンポジウム:「大学教育の質的転換の方向性を問う」
   ■河田 悌一 氏(日本私立学校振興・共済事業団理事長、中央教育審議会委員)
    「大学教育の質的転換に向けて:中教審答申と今後の課題」
   ■飯吉  透 氏(京都大学
    「アクティブ・ラーニングの是非を問う:主体的かつ効果的な学びの実現に向けて」
   ■山田 礼子 氏(同志社大学
    「アクティブ・ラーニングを通じての学生の学びとそれを支える環境」

 

 ■基調講演  - 活発な市民を生み出すためのアクティブ・ラーニング

プレ行事は参加できず、まずは基調講演から。

逐次通訳ではありましたが、普段からハエが止まりそうな速度でしか回らない頭なので、通訳をつけていただいても殆どついていけなかったというのが実際のところです(情けなし・・・

講師のMusil先生は「これからの大学教育における教育デザインやペタゴジーは、アクティブラーニングで育まれる能力やスキルに”グローバル市民としてのビジョン”を加えて設計すべきである」という内容のお話を、アメリカの大学における「地域と協同したアクティブ・ラーニングの展開」の実例を踏まえて示してくださいました。

アメリカは宗教・人種・収入の異なる多様なコミュニティや価値観があるはず。その中で大学が地域に入ってアクティブ・ラーニング、というのは果たしてうまく行くのだろうか、いや、だからこそ日本では比較にならないほどの幅広い視野や発想が身に着くのだろか。日本ではこのあたり、特に被災地で行われている地域協同プログラムで実現されつつあるのではないだろか、などとぼんやり考えながら聞いていました。

アクティブ・ラーニングが授業やラーニング・コモンズのような場で実現させるもの、という考えに拘りすぎていないだろうか、大学の中に限定されないアクティブ・ラーニングという視点は、学生の精神的な成長にとって実はとても大切なことなのかも知れません。

#以下のサイトに、地域と協同したアクティブ・ラーニングの事例が示されているようです

The Active Learning Active Citizenship project (シェフィールド・ハラム大学(イギリス))

 

■会場校企画シンポジウム - 大学教育の質的転換

1)河田 悌一 氏(日本私立学校振興・共済事業団理事長、中央教育審議会委員)
「大学教育の質的転換に向けて:中教審答申と今後の課題」

中教審の委員を務めていらっしゃる河田先生からは、答申で求められたもの、中教審の動向についてお話をいただきました。

まず最初に、近年の大学政策についての解説。普段から目にしてはいるものの、しっかり理解しているか自信がなかった各種答申のポイントについて、詳しいお話をいただけたのは非常に良かったです。

大学教育の質的転換や、能動的学修におけるアクティブ・ラーニングの有効性、学修支援環境の更なる整備が指摘された点で図書館関係者の注目を集めた「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」 (2013年8月)について、そのベースとなる各種答申の流れから説明をいただきました。

大学の機能別分化と高等教育の質保証が謳われた「我が国の高等教育の将来像(答申)」(2005年1月)、大学の3つのポリシー*5について言及された「学士課程教育の構築に向けて(答申)」(2008年12月)、大学機能の再構築と大学のガバナンスの充実・強化の2本柱が示された「大学改革実行プラン」(2012年6月)

「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~」はこの3つの大学改革を受けた答申であること、そしてこれらの大学改革を実行するための具体的指針が示されている、とのこと。

お話を伺って、これまでは単体の答申をひたすら読み込んでいたけれど、それだけでは背景にある「改革が必要な理由」は見えてこなくて、そこに連なる答申やまとめの文脈も含めて読む必要があるのかも、と感じました。

うまく纏められないのですが、大学はその役割を認識し社会からの要請(次代をリードする人材の育成・イノベーションの創出等々・・)を実現すること、そのためには、受動型学習から能動的学修への転換といった教育手法の改善のみならず、教学マネジメントを確立し、学内外と連携して組織的に成長していく必要がある。

今年5月に出された教育再生実行会議の【pdf】これからの大学教育等の在り方について(第三次提言)についても、ここまでの各種答申やまとめの内容が網羅されており、お恥ずかしい話ですが、今更ながら日本の高等教育政策が体系的に立案されていることを実感しました。

文科省の答申にがんじがらめになるがゆえに、「自学らしさ」「ならでは」が出せなくなることを懸念する意見も耳にしますし、私自身そう感じるところもありますが、少なくとも日本の高等教育が向かう方向をしっかりと見て理解しておくことは、大学で働く我々にとって必要不可欠なことではないかと感じました。

 

■余談その1

私立大学を対象に今年度からスタートした私立大学等改革総合支援事業文部科学省、日本私立学校振興・共済事業団共同実施)は、

■タイプ1「建学の精神を生かした大学教育の質向上」(大学教育質転換型)

 ・全学的な教学マネジメント体制の下、建学の精神を生かした教育の質向上のためのPDCAサイクルが実践されている大学を支援

 ・学生の学修時間の確保のための取組として、シラバスへの学修時間等の明記、学修時間の把握等の取組を重点的に評価

■タイプ2「特色を発揮し、地域の発展を重層的に支える大学づくり」(地域特色型)

・地元自治体、産業界等との連携の下、地域が求める人材の育成、地域貢献、生涯学習機能の強化など、特色を発揮し、全学的に地域の発展を重層的に支える大学を支援

・地元産業界等と連携した教育プログラム(正規の課程の他、社会人の学び直しのための履修証明プログラムを含む)の実施を重点的に評価

■タイプ3「産業界など多様な主体、国内外の大学等と連携した教育研究」(多様な連携型)

・全国的な産業種別団体、先端的な技術等を有する企業等や国内の大学等と連携した高度な教育・研究を行う大学、海外大学との連携等により、世界的に活躍できる人材の育成等に取り組む大学等を支援

 と、これまでのような、申請に対する部分的な評価ではなく、答申等で重視されていた点について総合的に評価、ポイント化し、一定ラインを満たした大学を支援対象校に選定した上で私立大学等教育研究活性化設備整備事業の補助を行うなど、地道に改革の努力を行っている大学を支援する施策に変化しています。

評価については様々な議論はあるかと思いますが、少なくとも我々大学職員が教学マネジメントを常に意識する必要があると思いますし、特に図書館職員は正課・正課外教育の改善にコミットできる、教員と職員の中間の場所にいるのではないかと感じています。

#この事業に付随する「私立大学等教育研究活性化設備整備事業」とアクティブ・ラーニングとの関係については、id:shibureさんのこちらのブログに完璧にまとめられています

私立大学等教育研究活性化設備整備事業の結果&追加募集とアクティブラーニングコモンズ(前編)

私立大学等教育研究活性化設備整備事業の結果&追加募集とアクティブラーニングコモンズ(後編)

#平成25年度私立大学等教育研究活性化設備整備事業採択校(案)の概要は こちら(文部科学省資料【pdf】)

 

■余談その2

図書館関係者の方にとっては興味深い資料がありましたのでご紹介(この一部が当日配布されました)
【pdf】教育再生実行会議「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」 (第四次提言)参考資料(2013年10月31日)

スライド13「学生の学修時間の日米比較及び各大学における学習環境整備の例」では小樽商科大学:アクティブラーニングのための教育環境整備、同志社大学:ラーニング・コモンズの整備、早稲田大学:ライティングセンターの整備が、スライド15では「アクティブ・ラーニングスペースの整備」「初年次教育の実施状況」が挙げられています(最新の状況に近い数値?

 以下、だいぶ長くなったので続きは次のエントリで・・・(次の更新はいつになるのだろう。。

*1:教授団の能力開発、教員開発。

*2:現在の日本の大学で、SD という略語は FD と対比して使われる場合にはふつう事務職員の能力向上(のための各種活動)を言う。(*1,2:  香川大学大学教育開発センター「FD(Faculty Development)用語の基礎知識」)http://www.kagawa-u.ac.jp/high-edu/data_fd.html(参照 2013-12-08)

*3:従来型の静かに行う学習から、活発にグループで討議するようなアクティブ・ラーニングまで、現代の大学生の多様な学習を支援するための施設・設備。(米澤誠. CA1804 - 研究文献レビュー:学びを誘発するラーニング・コモンズ. カレントアウェアネス. 2013, 317. http://current.ndl.go.jp/ca1804 )(参照 2013-12-08)

*4:教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。(中略)発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等によっても取り入れられる。(中央教育審議会大学分科会大学教育部会「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ(審議まとめ)」(2012.3)

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2012/04/02/1319185_1.pdf )(参照 2013-12-08)

*5:アドミッション・ポリシー(入学者受入の方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程編成・実施の方針)、ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針) *カッコ内の呼称は大学によって異なる

新年のご挨拶&私立大学における機関リポジトリ構築について思うこと

 

新年あけましておめでとうございます。

 

昨年はいきおいでブログを始めたものの、8月で完全に時が止まっておりました・・

今年もできるときにちょこちょこ更新、となりますが、見てきたこと、感じたことを自分なりに、つれづれと細く長く(?)記録していこうと思いますので(相変わらず文章力はありませんが・・)どうぞよろしくお願いいたします。

 

新年1発目は私立大学における「機関リポジトリ*1の構築について思ったことをつらつら書いてみます。

 

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2013年1月4日、文部科学省による「学位規則の改正案に関するパブリックコメント」の募集が締め切られました。

今回の学位規則の改正案を見ていると、いよいよ大学において機関リポジトリは情報インフラとして欠かせないものとなってきているのかな、と今更ながらに強く感じます。

なお、今回の「学位規則の改正案」の概要は下記のとおりです。*2

1)博士論文の印刷公表*3に代えて、インターネットを利用して公表することとする

2)博士論文要旨等についても、インターネットを利用した公表とする

#1)・2)ともに「大学院における教育研究成果の電子化及びオープンアクセスの推進の観点」からの改正となる

#「インターネットの利用による公表」とは、学位を授与した大学の機関リポジトリ国立情報学研究所が提供する共用リポジトリ「JAIRO Cloud」・ホームページの利用が想定されている

(個人的には「JAIRO Cloud」という言葉がここに登場したのはびっくりでした)

同関連情報「学位規則の改正案に係る考え方(補足)」には、インターネットの利用による博士論文の公表形態について、「博士の学位を授与された者各人が各々の手法でインターネット上に公表するのではなく、長期にわたり継続してインターネットを利用した公表が維持されるためには、学位授与大学等が責任を持って一元的に管理し、発信することが望ましいと考えられる」とあります。

上記でも言及されている「機関リポジトリ」の整備に関しては、昨年7月に文部科学省 科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会より出された「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」において、日本の学術情報基盤整備と国際発信力の弱さ、日本発のの有力ジャーナルの育成の必要性を指摘しつつ、

・研究成果のオープンアクセス化に関して積極的に取り組むべき

・国内におけるオープンアクセスジャーナルの育成

・各大学等が整備を進めている機関リポジトリの活用

・大学等が教育研究活動をアピールするに当たり、機関リポジトリの整備・充実は重要であるとの認識を一層普及させるべき

・機関リポジトリの整備による研究成果の社会への還元が大学等の責務を果たすことにつながる

・大学等全体として取り組むべき情報発信機能であることを明確化すべき

・「大学改革実行プラン(平成24年6月)」における「大学ポートレート(仮称)」と同様、大学情報の積極的な発信を目的とするものでもある

・大学等の機関別認証評価等において、機関リポジトリによる情報発信への取組を評価の対象とし、その取組状況を把握・周知することが重要

・大学等による研究者の個人評価において、業績として情報発信の取組を評価の観点に加えることが重要


と述べられており、「科研費等競争的資金による研究成果のオープンアクセス化への対応」の項目においては「所属機関の整備する『機関リポジトリ』をオープンアクセス化の受け皿として活用することが現実的な方策」とも記されています。

学位規則の改正案にしても「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」の内容にしても、研究機関として機関リポジトリは既に設置されている前提で、その次の段階(機能強化)に論点が置かれていると感じました。

 

国立情報学研究所最先端学術情報基盤(CSI)構築推進委託事業等の後押しもあり、国立大学ではほぼ構築済みとなっている機関リポジトリですが、翻って私立大学を見ると、全国的にまだまだ未整備の状況にあります(JAIRO Cloudの登場で、構築が一気に進んでいる印象もありますが)


これまでも

「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」(平成14年3月 文部科学省科学技術・学術審議会・研究計画・評価分科会・情報科学技術委員会・デジタル研究情報基盤ワーキング・グループ)
「学術情報基盤の今後の在り方について(報告)」(平成18年3月 文部科学省科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会・学術情報基盤作業部会)
「大学図書館の整備及び学術情報流通の在り方について(審議のまとめ)」(平成21年7月 文部科学省科学技術・学術審議会 学術分科会 研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会)


等で、学術情報流通における機関リポジトリの構築と機能強化の必要性について言及されてきてはいましたが、今回の学位規則の改正案と「学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について」の内容は、私立大学における機関リポジトリの構築の強力な追い風となるのでは、と思っています。

機関リポジトリを構築・公表することにより、大学にとっては、研究成果の社会への還元(博士論文の公表も含め)や、科研費等の公的資金による研究成果の発表等により社会に対する説明責任を果たすことにもなります。また、大学の研究動向を積極的に外部に公表することにより、新たな産学連携のきっかけを作ることができるかも知れない。研究者にとっては自身の研究成果のアピールの場となり得るし、可視化にもつながっていく。そして個人的にはちょっといやらしいなあ(?)という印象もありますが、「大学等の機関別認証評価等において、機関リポジトリによる情報発信への取組を評価の対象とし、その取組状況を把握・周知すること」「研究者の個人評価において、業績として情報発信の取組を評価の観点に加えること」が重要、と謳われたことは大きいと思います。

 

図書館のなかのひとが追い風を認識し、こうした利点を積極的、戦略的に学内に伝え、学術情報流通の一翼を担う自覚を促していく必要があることを強く感じました。

*1:自機関で生産された研究成果(学術論文・各種報告等)をサーバーに蓄積し、インターネットにより広く学内外に無償で公開するシステム

*2:文科省「学位規則の改正案に関するパブリックコメント(意見公募手続き)の実施について」関連情報「学位規則の改正案について」 http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000094626 より要約

*3:学位規則(昭和28年文部省令第9号)第9条

「学生の“が”をカタチにした 図書館の可能性を検証する」(高等教育問題研究会(FMICS)7月例会 参加記録)

 

高等教育問題研究会の例会に初めて参加しましたので、メモとして。

※あくまで私の聞き取れた範囲&私個人の解釈を踏まえての内容となっております。


高等教育問題研究会のメンバーは主として私立大学の事務系職員、そのほか、理事・教員・学生、各種団体・民間企業・官公庁などからの参加者もいらっしゃるとのことです。

 

  高等教育問題研究会(FMICS)7月例会(第623回例会)

  日  時:2012年7月28日(土)14:00-17:00

  会  場:千葉大学 アカデミック・リンク・センター
  問題提起:織田 雄一 氏 (千葉大学学生部長)
      竹内 比呂也 氏(千葉大学文学部教授・附属図書館長/アカデミック・リンク・センター長)
  司  会:高橋 真義 氏 (桜美林大学 大学アドミニストレーション研究科教授)
  http://www.fmics.org/

 

 

 

図書館業界では何かと話題の、千葉大学アカデミック・リンク・センター。

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2012年7月7日(土)に開催された情報メディア学会第11回研究大会において、センター長の竹内先生の基調講演「アカデミック・リンクは何をめざしているか 高等教育における図書館を基盤とした新たな学習環境の構築に向けて」を聴いて以来、新しい形の学習環境を創出しているアカデミック・リンク・センターが気になっていました。

#情報メディア学会の竹内先生の基調講演報告についてはかたつむりさんのレビュー(「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」)に詳しいです

 

ちなみに今回の参加のきっかけは以下の2点でした。
千葉大学のアカデミック・リンク・センターは図書館業界で頻繁に話題に挙がるものの、図書館外の職員の方々にはどのように見えているのか聞いてみたい
・一般的に図書館職員は大学の中で孤立しがち→教員との連携不足や大学の施策において図書館が重視されない傾向に繋がっているのでは?→様々な立場の方の意見を聞き「より良い学習環境を創出するために図書館職員がなすべきこと(意識改革)」のヒントを得たい


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竹内センター長よりアカデミック・リンク・センターの説明をいただきつつ施設見学。

 

    アカデミック・リンク・センター3つの特長

           「自由なスタイルで学習できる空間の提供」

           「学生に使いやすい形でのコンテンツ提供」  

              「人的支援によるコンテンツ活用能力の向上」

 



アカデミック・リンク・センターには「主体的に学ぶ」楽しい仕掛けが随所に散りばめられていました。


■アカデミック・リンク・センターがめざすもの
 ・「考える学生の創造」
 ・「生涯学び続ける基礎的な能力」「知識活用能力」を持つ学生の育成
 ・空間・コンテンツ・人的支援の融合

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アカデミック・リンク概念図

 


■予算の獲得

 ・「図書館の改革」ではなく「千葉大学の教育改革」として提案
 ・図書館が何かを変えようと言ったところで大学全体に与えるインパクトは弱い
 ・「アカデミックリンクセンターは千葉大学の最大の強み」 と言われるところまできた
   →中教審答申に言及されている
    【PDF】「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ」(審議まとめ)資料編2/2  (2012年3月)
               
    
高等教育政策における大学図書館

 ・大学においてもっと図書館に着目されてもよかったのではないか
 ・学習・教育のサイドから図書館が果たすべき役割についての発言は希薄
  「21世紀の大学像と今後の改革方策について(答申) ―競争的環境の中で個性が輝く大学―」(1998年3月)では大学図書館について言及されているが、施設・整備の利用が中心
  (→「閲覧席の確保」「開館時間」「開館日数」「必読図書の配備」など
 ・1990年代になってようやく教育改革の機運高まる
 ・2000年代の学生支援GPで図書館を取り上げたものが脚光を浴びた
        東京女子大学「マイライフ・マイライブラリー」


■建物の構成

 ・静粛な閲覧スペース
 ・書庫的空間
 ・研究開発、コンテンツラボ、ティーチングハブ
 ・アクティブラーニングスペース
 ・書店(福利厚生施設)→図書館の建物のなかに作るのは珍しい

 4つのゾーニング
  L棟 Learning 黙考する図書館
  I棟 Investigation 研究・発信する図書館
  N棟 Networking 対話する図書館
  K棟 Knowledge 知識が眠る図書館

 #おおっ縦読みすると「LINK」になってる!(←いま気がついた

この日はN棟を中心に見学させていただきましたが、館内は学生さんで賑わっていました。
写真はアップできませんでしたが、グループ学習スペースは満席。
学生さんたちが本当に楽しそうに、生き生きと学習に取り組む姿が非常に印象的でした。

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N棟 窓際には個人席がずらーっと。この日は満席でした。

 

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N棟 外からまる見えのグループ学習室

 

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N棟 見せる書架(ブックツリー)

授業で使用される資料が「授業資料ナビ」とともに展示される

 

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ブックツリーに配架された資料は同一タイトルで複数冊用意。

カバーに「館内用」「貸出可」の表示をつけている

 


■空間の演出

 ・「見る」「見られる」ということが大きなコンセプト
   →明るくて外からよくみえる→そこで勉強しているひとの姿がよく見える
   →図書館が外からみえる→プレゼンテーションスペースが丸見え。外から入ってくるのも自由

   →グループ学習室もガラス張りで丸見え
   →教室も丸見え
    ☆「見える」「見せる」ことがそこで活動するひとの刺激になる

  
■学生の知的好奇心を刺激するイベント

  ・1210あかりんアワー
    →1回あたり約20-70名参加
    →プログラム例:

    「教員が研究の楽しさを語る」
    「千葉大人の意外な一面を発見する」
        ⇒職員や理事も登壇し謡曲や四重奏を披露したり
    「ブックトーク 働くオトナが学生に薦める1冊の本」
                    ⇒敢えて図書館以外の部署の職員にスピーカーを依頼
    →オープンな場所での開催→「ん、なんか面白そうなことやってる」とふらっと来るひとも
    (「見せる」演出)
   →アカデミック・リンク・センターをどう使うか学生に提案させる試みも
 ・学生に発見してもらいたい
   →「自立的に学ぶ」いろいろなきっかけを作ってほしい
   →「これおもしろい!」っていう気づきを作るきっかけをアカデミック・リンク・センターが担う
 ・学生が作ったものを発表する場所としてのプレゼンテーションスペース

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N棟 プレゼンテーションスペースの使用例
観客席の背後には全面開放できるガラスドアがあり、外を歩く学生も自由に入ってくることができる

 


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見学後は竹内先生と参加者によるディスカッションが行われました。

 

まずは、参加者である私大職員の方(not図書館)からの問題提起。

 

  図書館を使わなくても卒業できてしまう現状
  教員が図書館を使う必要のある授業をしていない
             →教員と図書館の連携が取れてない?
  図書館は「図書館を使って!」といろいろやっているようだが、結局それは図書館職員が自分
  居場所を確保するため、生き残りをかけて頑張ってるようにしか見えない。
  図書館の一人相
撲であって、お金と人の無駄ではないか

 

 
わーお痛烈。図書館の中のひととしては正直ヘコむ内容でしたが、まさに言い得ているなあとも思いました。


また他の参加者からは

 

・「図書館を使わせる」ではなく「学習行動のなかで自然に図書館を使う」流れにできたらいいのでは

・図書館と教員の思いがマッチしてない学校が多いが、千葉大ではうまく行っている。その秘訣は?

・学士課程教育において事前事後学習が求められているなかで、教員が図書館に相談できるようであったら

・現状では図書館職員が「本の番人」に終始しているケースが多いのでは?

千葉大のなかの図書館の位置づけは?

 

という問いが。


アンサーとして

 

コンセプトブック【PDF】を読んでみてほしい
・2006年から教員と職員との連携を考えていた
・教育のなかの図書館機能の強化
・当時部署内で最も若い職員を連れて行き学長にプレゼンテーション(好評!)
・教員と「図書館員」ではなくて、教員と「図書館の◯◯さん」という関係の築き
   →図書館員と教員が接触する機会を増やす
   →教員からみたときに、図書館員が匿名ではなくなる
   →図書館員と教員が向き合い授業を作り上げる
   →アカデミックリンクセンターの考え方の根底にあるもの
・グループ学習空間でゼミをやってる先生もいる
・7つのプロジェクトが進行中
   →各プロジェクトに教員と職員を組み合わせて取り組ませる
   →職員は教員の下請け、というかたちにさせず、自由闊達に意見交換をしてもらう
・センターのコンセプトは中教審答申の半歩くらい先を行っていた
・平成8年の学士課程答申を読んだときに、図書館にできることがたくさんあるではないか、と思った
・なぜ千葉大で実現できたか?
   →図書館の変革ではなく、大学の教育改革という切り口で話を持って行った
   →図書館の内部でやったら失敗する、というのは分かっていた
   →他大学のコモンズとは違う、というところを強調
・効果を学内で共有していることが千葉大の成功のポイント

 
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感想

■パブリッシング・ハウスとしてのセンター
ラーニングコモンズは空間・資料・人的支援が強調されますが、千葉大学のアカデミック・リンクが他のラーニングコモンズと大きく異なる点は、アカデミック・リンク・センター3つの特長の中の「学生に使いやすい形でのコンテンツ提供」です。
従来の図書館は「学外で生産されたコンテンツの収集」が中心であったのに対して、アカデミック・リンク・センターは教員が作成した教材などの学内生産物を含め、授業に必要な教科書や参考資料などの電子化(著作権許諾手続含む)を行うパブリッシング・ハウスとしての機能を持っているそう。

 

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コンテンツ製作室 授業コンテンツ制作のための作業端末が見える(写真ぼけぼけでスミマセン・・


「学内外問わず、学生が使いたい資料を多様なフォーマットで提供する」
「センターが著作権許諾を含む電子化業務を担う」
これまでの図書館にない新しい視点ではないでしょうか。


■図書館の「見える化」の効果
竹内先生のお話を伺っていると、先生が「図書館職員だけではなく、他部署の職員も積極的にセンターに関わってもらう」というスタンスを取っていらっしゃることがわかります。これは、上述の「1210あかりんアワー」に敢えて他部署の方をスピーカーに招いていることにも表れています。

経営サイドに対し、アカデミック・リンク・センターを「図書館の改革」ではなく「千葉大学の教育改革」として提案したことは、「 図書館のなかでいろいろ考えても伝わらないことが多い」という経験に基づいていた。こうして大局的視点で構築されたセンターで、教員だけではなく他部署の職員にもセンターに関わってもらうことで、図書館外からセンターに対し好評価を得ることができ、「外からの評価で大学のなかのひとも納得する」「外からの評価が格好の図書館アピールとなる」ということを実感したそうです。

センターは主体的な学習の場であると同時に学生・教員・職員のコミュニケーションの場。その中には部門間連携を促進させる仕組みが存在しており、千葉大学での成功の鍵がここに凝縮されているように感じました。


千葉大学にしかできないのか?
竹内先生の「ハード面で制約があっても、アカデミック・リンクの考え方自体は普遍のものであり、どこの大学でも当てはめることはできる」という言葉が印象的でした。
こういった先進事例を聴くと、「きれいな施設、大きなハコを作るなんて予算がないから絶対ムリだし、学習支援における院生の活用も学内のハードルは高いし、うちには難しいかも。。」と思ってしまいがちですが、ソフト面で実践できることはたくさんあるじゃないかと気が付きました。

肝心なのは、千葉大学での実践のなかで自学で活かせる部分を落とし込んでいくこと。

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「主体的に学ぶ能力」を習得するための学習環境の創出はもはや図書館単体で考える課題ではなく、大学を構成するすべての人々がボーダレスに協働する必要があります。アカデミック・リンクの考え方を取り入れつつ、図書館職員の意識改革にも取り組んでいきたいなあ、と思った一日でした。

 

20120802追記:掲載写真の撮影、使用については許諾をいただいております。

 

日本高等教育学会第15回大会 参加メモ(2)

 さて前回のエントリに書いた、発表者ご本人からWeb掲載の許諾をいただいた発表についてのメモを。

(ご承諾ありがとうございました!)

※あくまで私の聞き取れた範囲での内容となっております。足りない部分も多々ありますことをご了承ください

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大学図書館による社会人を対象とした情報リテラシー教育とその発展可能性  / 梅澤貴典さん(中央大学


梅澤さんは現在中央大学ビジネススクール事務室に勤務されておりますが、図書館勤務経験がおありです。また勤務の傍ら大学院修士課程を修了されています(「大学図書館職員の専門性アップ」を研究テーマとされていたとのこと)

 ひとくちに図書館員の専門性アップと言ってもそこには様々な問題が横たわっていて(大学における人事政策・財政問題等)、専門性の向上や専門職員の確保のためには、大学行政の面から改善策を提言しなければならない。そのためには大学に関する様々な知識・課題等を体系的に学ぶ必要があると考えたそうです。

このへんは個人的に非常に共感できる部分であったので、梅澤さんから高等教育学会で発表するというお話を伺って、「これは聞かなくては!」と思ったのでした。
 
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<大学図書館を取り巻く環境の変化>

⇒資料の電子化・情報リテラシー教育の充実を求められる

⇒しかし社会人院生にとっては旧来の「静かに紙媒体資料を使って勉強する」イメージ

 

<ウェブの情報の拡大>

⇒企業や団体において責任を持つ社会人には「あふれかえる情報からエビデンスのある情報を取捨選択する力(情報リテラシー能力)」が求められる
⇒検索エンジンで引っかかる情報が全てと捉える人間と、様々なツールを使ってエビデンスのある情報を収集できる人間では企業の評価も大きく変わる

 

<社会人院生が業務を遂行する上で、情報リテラシーのスキル・知識の不足点を検証>

⇒大学図書館はどのように支援できるか?
⇒大学経営にいかに応用できるか?(在学生への付加価値を付けられるか?)

 

<「働きながら学ぶ社会人大学院生」への情報検索講習会参加者アンケートの分析>

 ⇒Aグループ:T大学大学院 大学経営・政策コース
  Bグループ:MBA取得を目指す国内ビジネススクール在学生を中心とした勉強会
⇒各種データベース・電子ジャーナルについての認知度が予想以上に低い
⇒受講前の認知度が低いツールほど、受講後「役立つ」と感じる度合いが上がる
⇒認知度の役立つ度も、勤続年数による影響はあまりない(若年層でも知らないDBが多い?)
⇒学位の高さによって役立つと感じる度合いも変わる

※アンケートの母集団が学習に対して積極的な層であることから、一般の社会人は各ツールの認知度は低いと思われる
受講生のレベルや傾向によって講習会をカスタマイズする必要あり。

 

<社会人対象の情報リテラシー教育の実施>

⇒潜在的ニーズは大きい(が、ニーズ自体認識されてない)
⇒著作権と資料への引用時の表記ルールの認知度が低いのは、企業におけるコンプライアンスの面からも危険。企画書作成等通常業務に置いても遵守すべき、という教育は必要不可欠

 

<大学経営政策への応用>

⇒社会貢献

⇒新規マーケットの拡大

⇒大学で学ぶことの価値を再認識させるきっかけ

⇒卒業生の付加価値の向上

 「エビデンスのある情報を効率的に集められる」という付加価値(他大学との差別化)

⇒在学中から企業の第一線で働く社会人院生にとって、その付加価値の企業に与える効果は大きい

 

<大学職員のスタッフ・ディベロップメントへの応用>

⇒大学職員がWikipediaや検索エンジンで得られる情報だけを引き出しに、学生や世の中のニーズを捉えるのは危険。多面的な情報を収集し分析する力を
⇒大学の経営を担う人材として、社会人同様エビデンスの高い情報を効率的に収集する能力は必須
⇒社会人に対する情報リテラシー教育を発展させ、職員に対する情報リテラシー教育の実施を最終目標と考えている

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感想

 今回の発表は、ビジネススクールで学ぶ社会人に対する情報リテラシー教育の成果を自学の卒業生の付加価値とし、自学ブランドの向上に結び付けていくという、非常に興味深い研究内容となっています。大学図書館はこれまで社会人(大学職員含む)をサービス対象として見ていない傾向が強いと思っていましたので、こうしたサービス提供層の拡大に新たな可能性を感じました。

また、大学職員にとっても情報リテラシーは必須であるという箇所は非常に共感できます。学生を送り出し、経営を担う人材として、信頼性の高いデータや情報を効率的に収集し的確に分析する力は必要不可欠です。

こうした「成果が目に見えにくい部分」について、図書館がどのように貢献できるか考えなくてはいけない時期にきているのではないかと強く感じました。

日本高等教育学会第15回大会 参加メモ(1)


人生初、「学会」と名のつくものに参加してきました。

日本高等教育学会 第15回大会
 2012年6月2日(土)-3日(日) 於 東京大学本郷キャンパス
 http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/taikai/

  • 参加のきっかけ

研究者でもないのになぜ学会へ?

きっかけは、東北大学高等教育開発推進センター主催の大学職員能力開発プログラム(SDP)「教育企画力とは何か? いかに身につけるか?」
(2012年2月29日(水)開催  http://bit.ly/AhE6LG
に参加した際にパネリストから発せられた

・教育企画力を持つ職員⇒教育成果に能動的に関わる職員
・教育成果に関わるためには、裏付けとなる知識(教育理論や実践)が必要

ということばに強く影響されたためでした。

私は大学図書館の中の人なので、以前から図書館と授業をもっと密接に結びつけられないかなあとか、初年次教育に図書館が積極的に切り込んでいくことはできないかしら、なんてことを考えていましたが、連携を考えようにも説得力のある提案ができない。これはどうしたものか・・・と悩んでいました。
そんな中で東北大学の大学職員能力開発プログラムに参加して初めて、「教育理論や授業手法の知識に裏付けされた提案力・企画力」が圧倒的に足りないのだ、ということに気が付いたわけです。

教育理論や実践のカレントトピックスを聞くには事例発表が豊富な学会が一番適しているかもしれない。
とは言え、いきなりガチな学会に参加するのはハードルが高いしなあ、と悩んでいたところ、大学職員の友人が日本高等教育学会で発表すると聞き(しかも図書館関連の内容!⇒次のエントリで詳細について報告します)、教員のみでなく職員も発表することにより双方の視点からいろいろと見えてくるものがあるかも知れないと思い、参加することにしました。


  • 聞いた発表

自由研究発表
 1) 大学生の学習成果達成に関する実証的研究
    -大学入試、各学年の学習成果、教職員によるエンゲージメントに着目して
 2) 大学教育の効果に関する横断的・時系列的研究
    -全国大学生・高校生調査から-
 3) コミュニケーション・ツールとしてのポートフォリオの検討
 4) オーストラリアの大学における学習支援空間 ラーニング・コモンズの事例から
 5) 大学運営における政策の受容に関する研究
    -キャンパスの禁煙化を事例として-
 6) 大学改革事業の成果へのアプローチ -参加者への質問紙調査の結果から-
 7) 専門職化しない日本のFD担当者に関する考察
    -「FD担当者」の持つ意味合いに着目して
 8) 大学職員がプロデュースする研修プログラムの意義と課題
 9) 大学院重点政策後の博士課程大学院教育
    -マクロ動向と研究大学のケーススタディ-
 10)大学図書館による社会人を対象とした情報リテラシー教育とその発展可能性
 11)中国人留学生からみる日本の大学院教育 -広島大学を事例とする-
 12)中国における「専門職学位」課程の卒業者の社会的評価とキャリア志向 
    -MBA、法律修士、教育修士を中心に-

課題研究発表
 ・大学教員にとっての授業 -組織・教育課程と行動様式-

自由発表だけでも80以上あり、私が聞いたのはその中のごくごく一部でしかありません。
 #聞きたい発表をはしごするために、野外フェスさながらに会場間を走って移動していました

テーマは学習成果・国際化・質保証・学部教育からIR・私学/国公立経営・財政・組織・職員といった大学行政的なものまで非常に幅広く設定されています。
できるだけ偏らず話を聞こうと思っていたものの、結局私学経営や財政についてはカバーできませんでした。

発表時間は各20分と短いのですが、その分構成もしっかり考えられており(それでも時間が不足してしまうようでしたが・・)発表内容はもちろんのこと、プレゼン技術や教員・職員のプレゼンスタイルの違いなど様々な事例を一度に見ることができて、テクニカルな面でも非常に勉強になりました。
学会は研究者だけのものではありません。大学職員の方々もぜひ学会に参加されることをおすすめします。
(可能であれば発表も目指しちゃえ!)

今回の発表の中で特に印象に残ったのは、自由発表のうち図書館関連の4)10)、職員育成がテーマの8)でした。
全てに関してメモと感想を、と思うのですがなにせ膨大な量なので、このうち発表者ご本人からWebへの掲載許可をいただいた方の発表メモと感想を次のエントリに載せたいと思います。

はじめに

最近、外部研修やお仕事がらみのイベントに参加する機会が急激に増えまして
そこで得られた知見を脳内だけではなくどこかにまとめておける場所はないものか、
せっかくだから近いお仕事をしているひとたちとそれらを共有できないものかと、
ぼんやりと考えていました。

そこでブログを開設し、ここに書きつけることにしました。

大学図書館や高等教育に関する研修やイベントに参加した都度、その記録を残して
いきたいと思います(更新頻度は少なめです・・

文章力のない私がブログを始めるのは暴挙としか言いようがありませんが、これも
訓練だと思ってぼちぼちやっていきたいと思います。

ブログ初心者ゆえ読みにくい部分も多々ありますが、ご容赦ください。

どうぞよろしくお願いいたします。